「日本人いない」国際大会の中・長距離種目に日本人を送り込むための応援記事

そう遠くない未来に訪れる、「外国人ランナー」が日本から消える日

※ここでいう「外国人ランナー」とは、日本の高校・大学・実業団に所属し、陸上長距離部員として生活する者を指します。

「外国人ランナー」はチームの起爆剤

日本で開催される駅伝大会を見たことある方はお分かりでしょうが、いくつかのチームには圧倒的な走力を持つ「外国人ランナー」がいます。そのほとんどはケニアからやってきた選手で、チームの起爆剤としての役目を担っています。

多くの実業団はもちろん、強豪私立の大学や高校でもこの「外国人ランナー」を起用しています。

外国人ランナーはそれほどレベルが違うのか?

結論から言えば桁違いです。高校生の外国人ランナーの記録が日本の実業団選手を含めた日本記録に匹敵するなど、チームに外国人ランナーがいるといないのでは雲泥の差です。

全国高校駅伝での起用

例として、年末に行われる全国高校駅伝を挙げます。

男子の1区は10kmで、各校のエースが走る区間となっています。2023年までの時点で、日本人選手の区間記録は28分48秒です。しかし外国人ランナーが持つ区間記録は27分48秒です。しかもこれは1995年の記録です。

男子第46回大会記事 | 全国高等学校駅伝競走大会

30年ほど経ってもまったく破られそうにない、まさに前人未到の記録と言っても過言ではないのです。ロードレースの10kmとトラックの10,000mは別物という考えがありますが、この記録は当時の実業団選手を含めても相当上位に入る記録になります。この1区は上り坂区間の方が長いので、平坦な10,000mよりもはるかにきついです。

そして女子の場合はさらに力の差が大きく、2023年の5区(アンカー区間)では外国人ランナーが1分20秒差を逆転して優勝に導いています。

第35回女子大会記録 | 全国高等学校駅伝競走大会

女子の5区と男子の7区はまったく同じコースと距離なのですが、男子の記録と比べても区間順位の真ん中くらいには入るタイムなのです。外国人女子ランナーと日本の高校生女子とでは、それこそ男子と女子くらいの力の差があるのです。

外国人ランナーが走れる区間はどんどん制限されている

このように、外国人ランナーはそれこそ反則級の力を持っています。1993年、最初に外国人ランナーを擁した仙台育英高校は男女とも各2人ずつ起用してアベック優勝し、大きな議論を呼びました。

男子第44回大会 | 全国高等学校駅伝競走大会

それ以降、外国人ランナーの出走は各チーム1人までというルールが設定されました。

さて、あなたが外国人ランナーを擁するチームの監督なら、この強力なカードをどこに配置しますか?そうですよね、当然最長区間一択ですよね?

外国人ランナーを擁するチームは当然そう考えていました。実業団だろうと大学だろうと高校だろうとです。先ほどの全国高校駅伝で言えば、当然最長区間である1区です。10kmも走れば1分以上のリードを奪えるのです。

当然外国人ランナーは1区に固定され、日本人だけで戦うチームは1区終了時点で大差をつけられていました。駅伝は前半の流れがものをいう競技なので、アクシデントがない限り先行するチームが圧倒的に有利なのです。なので外国人ランナーを獲得できないチームは当然、このルールにも抗議します。

「外国人ランナーに最長区間を走られたら勝負にならない。ルールを見直せ」

この結果、男女ともに2008年から外国人ランナーは、最長区間である1区を走れなくなってしまいました。

ついに最短区間のみの起用しかできなくなった

2023年まではこのルールに則り、外国人ランナーは男子で3区か4区(ともに8.1km前後の区間)、女子で2区か5区(4.1kmと5kmの区間)を走ることが多くなりました。1区を走った時点で大差ができることはなくなりましたが、それでもやはり外国人ランナーの影響は大きいままでした。

男子では3区に外国人ランナーを起用するチームが首位を奪う展開が多く、ここで首位を奪ったチームがそのまま総合優勝することが多かったです。女子ではアンカー区間の5区に外国人ランナーが起用され、外国人ランナーが走ったチームが上位入賞することが多かったです。

15年ほどのこの状況が続き、我慢しきれなくなった他のチームの抗議が認められたのでしょう。ついに2024年の大会から、外国人ランナーは最短区間の3km(男子2区と5区、女子3区と4区)にしか起用できなくなってしまいました。

ちなみに実業団の全国駅伝では、同じく外国人ランナーは最短区間(もしくはそれに準ずる区間)しか起用できないようになっています。男子のニューイヤー駅伝では2009年より最短区間の2区(8.3km)のみ、2024年からは4区(7.8km)のみしか起用できません。女子のクイーンズ駅伝では最短区間の4区(3.6km)のみしか起用できません。しかしこれらの区間はインターナショナル区間と呼ばれ、特にニューイヤー駅伝では世界トップレベルの選手たちをまとめて見ることができる夢の舞台でもあります。世界トップランナーたちをテレビもしくは現地で無料で見ることのできる機会は、人生においてもそうそう訪れるものではありません。

大学生の駅伝ではこのような制限はなく、外国人ランナーは任意の区間を走行できます。(一部制限がある大会もあります。)

外国人ランナーが日本から消える日

私は2つの理由から、外国人ランナーが日本から消える日がそう遠くない未来に訪れると思っています。

理由1:日本に来るメリットがない(外国時ランナー側の意見)

外国人ランナーの走行可能区間はどんどん短縮され、高校生では3km、実業団でも10km走れないというルールに変更されています。(大学生では20km以上の走行も可能)

外国人ランナー(主にケニア人)にとって、以下の点が短所になります。

  • 1年でたった3km(社会人でも10km以下)しか走らせてもらえない
  • 稼げる金が欧米諸国に比べてずっと少ない
  • 日本で生活するために日本語を勉強しなければならない

努力に対して得られるリターンが少なすぎるのです。特に言語面に関しては、ケニアの公用語でもある英語さえ話せれば欧米諸国で問題なく生活できるのに、日本ではチームメイトや監督とすら満足にコミュニケーションできません。満足にコミュニケーションもとれない状況の上に最短区間しか走れず、さらに欧米諸国と比べて実入りも少ないのであればわざわざ日本に来る意味はありません。外国人ランナーにとっては文字通り、「生活がかかっている」のですから。

みなさんが出稼ぎに行くとして、汎用性のない言語を話し、稼げる金も少ない国を選びますか?絶対に選ばないでしょう。もはや日本は外国人ランナーにとって魅力的な国ではなくなっているのです。

理由2:外国人ランナーの生活をサポートする経済的余裕がない(起用組織側の意見)

「生活をすべて面倒見てもらってるんだから、そのくらいは我慢するのが当然」

日本側ではそう思う人が多いでしょう。それも至極当然です。1人の外国人の生活をサポートするのに、一体どれだけの費用がかかるのか部外者にはわかるはずもありません。

高校や大学では他の学生の授業料から、実業団では他の従業員が産み出した利益を外国人ランナーのサポート費用に当てています。そもそも少子化で徴収できる授業料額が減少している学校組織、円安と物価高で企業の利益自体が減少している企業組織が、今まで通り外国人ランナーをサポートできるような経済状況でしょうか?

自分の生活すらままならないのに、他人の面倒を見る余裕がありますか?ないでしょう。外国人ランナーを受け入れる意志があっても、周囲から反発を受けるのは必死です。

 

どちらの側からみても、日本で外国人ランナーが走るメリットがなくなってきているのです。このような状況が続けば、外国人ランナーが日本から消える日もそう遠くはないでしょう。

外国人ランナーが日本から消えるのは、日本人ランナーにとっていいことなのか?

強力な外国人ランナーがいなくなった以上、ほっとする人が多いのは事実でしょう。ですが一部の日本人ランナーにとっては、「日本国内の大会で世界レベルの選手と競い合う絶好の機会」でもありました。世界に挑戦する意思のある世代トップランナー達の中には、「あえて外国人ランナーが起用される区間に出走して勝負する」という選手も少なくありませんでした。

自分よりも実力ある者と競い合うことで、自分の実力が上がることも事実なのです。これはスポーツに限った話ではなく、精神面でもです。なんにせよ自分のコンフォートゾーン(安心を感じるエリア)の外で経験することは、確実に自分を成長させます。

選手の立場では、ルールの変更に関しては口出しできません。大人(というより運営側)の都合だけで物事を決めてしまって本当にいいのでしょうか?

成長の機会を奪うことは、選手の育成にとってマイナスにはなりませんか?

個人の展望

いろいろ不満点を書き立ててきましたが、個人的にはルール変更後の男子の高校駅伝を楽しみにもしています。

後半最後の逆転区間として、外国人ランナーは5区に起用されることが多くなるのではないかと思います。長らくこの区間はチーム7番手が走る区間として扱われていて、2023年にようやく、50年以上ぶりに区間記録が更新されました。おそらく2024年の大会からは、この5区の区間記録はガンガン更新されていくと思います。最短距離ですが上り坂がほとんどのこの区間にチームの5000m最速ランナー、もしくは3000m障害を主戦場にしている選手が起用されることになるとも思います。

外国人ランナーには多少気の毒ですが、日本が世界に大きく引けを取っている中距離選手の育成に一役買ってくれる起爆剤になるとも思っています。

結論

外国人ランナー側からしても起用組織側からにしても、日本で走ることが難しくなっているのは事実です。この厳しい状況が続けば、外国人ランナーは日本から消えていくでしょう。

判官びいきの日本人からすれば、強すぎる外国人ランナーが反則に見えてしまうのも仕方ありませんが、それは日本人選手育成の機会でもあるのです。その機会は一方的に奪っていいものではないと思いますが、どんな流れになっていくのか静観していくしかないですね。

 

それではまた!

 

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